シドニーへS Setの葬式鉄に行った話(5)-S Setさよなら運転 2
前回の続きです。
オリンピックパーク駅からはリッドクム駅を経由して、ウェスタン線へ入線。今回の旅の大きな見所の一つであるイミュープレーンズ(Emu Plains)駅までの大爆走が始まります。とは言ってもパラマッタまでの「メイン・サバーバン(Main Suburban)」区間は最高速度が90km/hに制限されており、本格的な爆走はパラマッタの1つ先のウェストミード(Westmead)駅より先の区間から始まります。
営業運転する全列車が停車するパラマッタを程よいスピードで通過し、ウェストミード駅を過ぎると、今まで大人しかったモーター音が徐々に大きくなり、重たそうに加速していきます。
S Setのモーターは三菱電機製のため、スピードが出ると名古屋市営地下鉄3000形にそっくりなダミ声っぽいモーター音を聴くことができます。低速域のモーター音は阪急7000系に少々似ており、東京からおよそ7900㎞も離れた異国の地で、日本の古めの電車として紹介されても何ら違和感のない走行音が楽しめるのです。
ウェントワースビル(Wentworthville)駅からはいよいよ路線最高速度の115km/hに迫るスピードで爆走を始め、私御用達のトゥンガビー、セブンヒルズ(Seven Hills)、ブラックタウンと小気味よく通過。途中のトゥンガビー駅では、何とツイッターのフォロワー氏を発見することができました(笑)。

列車は定刻よりも少し早くイミュープレーンズ駅に到着。セントラル駅から60km近く続いた通勤線区間もここが終点となり、この先はV Set等しか走行しない近郊区間となります。
このイミュープレーンズ駅では、建物や駅の構造物が少なく最も綺麗に写真を収められるだけあって、電車に乗っていた参加者が皆ホームへ大挙し大撮影大会が始まっていました。私もその一員だったわけですが、この写真を撮るために5分程待たねばならず、結果この駅ではこれぐらいしか満足の行く写真は撮影できず。
ただ、真冬にも関わらずオタクが発する熱気は感じられ、オーストラリアにも熱心な撮り鉄が多いことを改めて意識させてくれました。しかも日本と違って皆マナーが良いので純粋にオタ活をエンジョイできます。
参加者が出払って誰もいなくなった車内で1枚。S,K,Cの内装はモノトーンで本当に温かさが感じられませんが、冬の柔らかい陽光のお陰で少々冷たさが軽減されているように見せませんか??
イミュープレーンズからはハリスパーク(Harris Park)駅まで再び快速運転を行い、そこから「カンバーランドYリンク(Cumberland Y-link)」と呼ばれる短絡線を走行します。が、そこに入る前にウェストミード駅でのフォトストップが入ります。
予定ではウェストミードの停車時間は10分でしたが、115km/hでの爆速運転の甲斐あって5分早着となりました。ダイヤの組み方がガバガバじゃないか?と疑念を抱かずにはいられませんが、この国では電車が時刻よりも早く出ることは珍しくなく、これもその範囲に十分含まれうるのではないかと思います(笑)。
さて、ウェストミードで適当にスナップを撮っていたら、無予告で運転台の見学タイムが始まりました。車内・駅でのアナウンスも無く、まさに偶然運転台の近くに居た人だけが見学できるといった感じのもので、私も混ぜてもらいました。
航海されていたのはGoninan製トップナンバー・C3001号車の運転台。シドニーの通勤型は前面展望が出来ない仕様とされていて、運転室内部は窓越しに僅かに見える部分しか一般客は見られません。そんな事情もあって、見るもの全てが新鮮で良さみしか感じられませんでした。特に一番下の写真の行先対照表は、今までネット上や各種文献でも見たことが無く、これを確認できただけでも渡航目的は十分達成されたと言っても過言ではありません。
この感動の瞬間を心で踏みしめながら、色々な写真を撮影して運転室を後にしたのでした。
あ、当然運転席に座った自分の写真も撮ってもらいました(笑)。
ウェストミードからは、先ほど述べたYリンクを通ってリバプール駅までメインサウス(Main South)線を南下。途中のフェアフィールド駅では、当駅で下車したい乗客のために急遽リクエストストップが行われました。
リバプールに到着。良い位置に電車が停車してくれたので、こんな感じで撮り鉄を入れた写真が撮れました。
ちなみに、あちこちにいる水色のユニフォームを着た青年は、皆SETS(https://www.sets.org.au/)というシドニーの鉄道愛好会のボランティア。このイベントでは切符切りや飲食物の販売、参加者対応など運営をサポートしていたようです。仕事の空き時間では写真撮影や乗り鉄を楽しんでいて、彼らは彼らなりに非常に楽しそうでした。
日本でもこういうイベントのボランティアに鉄オタの学生を起用すれば、との考えが一瞬頭をよぎりましたが、日本の鉄オタは割と社会性を欠く人が多いので、対応する側が学生だとかなり際どいかもしれません。
リバプールでそこそこの数の参加者が下車し、かなり空いてきた車内。時刻も17時近くとなり、夕日が車内に差し込んできます。
リバプールからはオールドメインサウス(Old Main South)線を通ってリッドコムへ戻ります。
日も暮れ3複線区間へ戻ってきたところ、急行線を走るワラターA Setとの並走が始まりました。どちらも殆どスピードに差が無い状態で、抜きつ抜かれつを繰り返していましたが、最後はWaratahが信号で減速し後方へ消え去っていきました。
末期は緩行線をノロノロ走る運用が中心だったS Set。列車線から並走する車両をごぼう抜きしていく姿は、T1での運用が終了した後は希少なシーンだったに違いありません。
17時半過ぎ。セントラル駅の16番線に到着し、いよいよハイライトのシティサークルとラベンダーベイ留置線への入線が始まります。
シティサークルのタウンホール駅、ウィンヤード駅は、シドニーの中心部にあり利用客が多いため、警笛を鳴らしながら低速で通過。突然の臨時電車の通過に、ホームにいた一般の乗客もスマホを向けています。
そしてハーバーブリッジも通過。オペラハウスやCBD、ノースシドニーの数々のビル群が編み出す美しい夜景と宵の美しい空色が、本当に映画でも見ているかのような魅力的な風景を見せてくれました。
ミルソンズポイントにS Setが来るのなんて何年ぶりだったのでしょう?
何だかラベンダーベイでは降車できなさそうな感じで、車内アナウンスでも「またこの駅で拾うから、駅撮りするのもありだよ!」的なことを言っていたので、ここで降りて夜景バック入線をやろうかと思ったのですが、日曜日でオフィスの電気があまり点いておらず断念。
再び乗車。ウェイバトン(Waverton)の留置線へ入線したものの、中々電車がラベンダーベイへ向けて発車せず、10分遅れて出発。ラベンダーベイへ向かう途中では美しいビル群の夜景が見られたのですが、結局ラベンダーベイに到着しても車内から出してもらえず、ちょっと物足りない感じがしました。まあその分S Setに長く乗っていられたので良いでしょう。
電車は来た道をそのまま折り返して18:20頃にセントラルへ帰着。事前告知ではここで解散となっており、殆どの参加者が下車。しかし、当日配布された旅のしおりでは、セントラルから先ストラスフィールドまで乗車できる旨の記載があり、私はそのまま居残りました。
セントラルからは間違って一般客が乗車しようとして、マニアに「特別団体列車だよ!」と指摘されている様子も見られました。
人気のある2階部分も人がまばらか0。冷風吹き出し口が無く弧を描く屋根やもゆっくり観察できました。
すっかり日が暮れて家々に明かりが灯り始めたインナーウェスト地域を、S Setは最後の一走りと言わんばかりに力走していきます。6時間以上通勤型電車で乗り鉄なんて無謀だと思っていた私ですが、気が付けば本当にあっという間に6時間は過ぎ去っていました。
18:36、本当の終着駅・ストラスフィールドへ到着。乗客を降ろした電車は2駅先のフレミントン車両基地へ回送されます。
ホームに降り立つと、駅員から「この電車は今日で引退します」とのアナウンスがあり、発車する瞬間から大きな警笛が響き渡り始めます。そして車掌と駅員はお疲れさまと言わんばかりに車体をバンバンと叩き、鉄オタが一斉にカメラを構え発車シーンを見送っている光景は、本当に万国共通でした。
日本のさよなら運転に比べるとかなり平和でしたが、あの最後の発車シーンを見送る鉄オタの熱気と一緒に写真を撮り出す一般人が織りなすお祭りのような雰囲気は、墓に入っても忘れることは無いでしょう。
こうして、私の渡航目的は完全に達成されたのでした。
2015年の留学時に初めてその姿を見て圧倒されたS Set。引退後も、ここでさよなら運転をこなした4両2編成の保存が決定しており、イベント走行も行われるだろうとの公式アナウンスもされています。とはいえ、現役時の姿そのままでの走行はこれが最後で、帰国から3か月近くが経過した今もあの「突然の渡航判断」は何ら間違っていなかったと断言できるでしょう。
次の渡航は2020年6月。3月にカンタス爆安シドニー往復弾丸ツアーをやろうかと思いましたが、上司の顔色が曇ったので6月のトランスポートヘリテージエキスポまで我慢することとしました。
完
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